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福岡高等裁判所 平成2年(行コ)7号 判決

控訴人

有限会社阿蘇浄化槽管理センター

右代表者代表取締役

内藤正良

右訴訟代理人弁護士

西清次郎

被控訴人

阿蘇広域行政事務組合

代表理事

河﨑敦夫

被控訴人

阿蘇広域行政事務組合

右代表者代表理事

河﨑敦夫

右被控訴人ら訴訟代理人弁護士

森山義文

主文

一  本件控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  承継前被控訴人阿蘇町外八ケ町村衛生施設組合長河﨑敦夫(以下「承継前被控訴人組合長」という。)が、控訴人から昭和六一年二月七日付でなされた右組合の管内全域を営業区域とする浄化槽清掃業及び浄化槽汚泥収集運搬業の許可申請について、同年四月二二日、控訴人に対してした営業区域を右組合管内のうち熊本県阿蘇郡阿蘇町の区域のみに限定した浄化槽清掃業及び浄化槽汚泥収集運搬業の許可処分を取り消す。

3  被控訴人阿蘇広域行政事務組合は控訴人に対し、金七八六八万五七四〇円及びこれに対する昭和六二年六月一四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

主文同旨

第二  当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加するほか原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する(ただし、原判決三枚目表三行目に「四月七日」とあるのを「二月七日」と訂正する。)。

一  控訴人の主張

1  訴えの利益について

行政事件訴訟法九条は取消訴訟が単に係争の処分または裁決の効力の排除のみを目的とするものではなく、現に当事者の受けている権利、利益の侵害に対する救済を目的として明文化されたものであることからすれば、同条括弧書の「処分又は裁決の取消しによって回復すべき法律上の利益」とは、現に有効に存在する処分又は裁決の効力を将来に向かっても失わせるという意味での取消を求めるについて有する利益だけではなく、これとは別個な、その処分又は裁決が過去において持っていた効果を取り消すことによって得られる利益も含むものである。従って、期間の経過により処分自体の効力は失われてもその処分の取消を求めなければ回復できないような法律上の不利益が残存する場合には、訴えの利益が認められるべきである。本件にあっては、熊本県阿蘇郡阿蘇町の区域に限定した浄化槽清掃業及び浄化槽汚泥収集運搬業の許可処分を取り消さなければ、将来も一部限定の許可処分が同様に繰り返されるという法律上の不利益が認められ、現に、昭和六二年度から平成二年度まで毎年区域を限定した処分が繰り返されているし、今後も繰り返されることが予想される。一部許可処分の有効期間が一年であるとして、その期間を経過すれば不許可となった部分についての訴えの利益が失われるとすれば、この種事件について一、二年間で判決が確定をみることは皆無であるから、行政処分取消し訴訟を認めた趣旨は没却される。

2  本案について

(一) 控訴人は昭和四九年一二月二六日以来昭和六〇年度まで、承継前被控訴人組合の歴代の組合長から組合管内全域について、浄化槽の清掃に係る汚泥の収集、運搬を業として行うための許可を得て営業を継続してきたものであり、控訴人は廃棄物処理法七条二項各号の要件に適合していたのであるから、一般廃棄物の処理計画を規定した同法六条一項、二項の趣旨に照らし、承継前被控訴人組合長は昭和五四年一一月二六日付環整第一二八号・環産第四二号、厚生省環境整備課長・産業廃棄物対策室長連名通知による指導に従い、控訴人に対して阿蘇町のみならず八ケ町村の区域についても、浄化槽の清掃に係る汚泥を収集、運搬するための一般廃棄物処理業の許可を与えなければならなかったのである。承継前被控訴人組合長が自ら策定して熊本県衛生部長に報告した昭和六一年度一般廃棄物処理計画では、浄化槽汚泥は浄化槽の設置者から清掃の依頼を受けた浄化槽清掃業者(控訴人に対する浄化槽清掃業の許可につき、被控訴人らは区域の限定をしていないと主張している。)にそれぞれ収集させるとしていながら、控訴人に対して阿蘇町を除く八ケ町村の区域について不許可処分としたのは、廃棄物処理法によって与えられた裁量権の範囲を逸脱した違法な処分である。

(二) 被控訴人らは、浄化槽汚泥収集運搬業の許可を阿蘇町の区域に限定するについて控訴人の同意があったように主張しているが、控訴人が無条件で同意した事実はない。承継前被控訴人組合長は、昭和六一年四月一四日に開催された承継前被控訴人組合の協議会で、控訴人が組合管内全域において浄化槽の保守点検を業として営むことができるようにするために、一の宮の区域についてはあそ清掃社代表者向一助をして、長陽村、白水村、久木野村の区域については有限会社上村商会代表者上村ヤスエをして、高森町、波野村、産山村、西原村の区域については有限会社出崎衛生社(当時、旧商号有限会社大阿蘇清掃社)代表者出崎稔治をして、それぞれ業務提携を証する書面(以下「業務提携証明書」という。)を控訴人に交付させること及び右業務提携証明書については同組合長の責任において右三業者をしてこれに署名捺印させる旨の確約書を控訴人に差し入れることを区域限定に対する同意の条件として約束し、かつ、説得したので、控訴人会社代表者内藤正良はやむなく、同組合長の説得を承諾したのである。しかるに、承継前被控訴人組合長は、右三業者に業務提携証明書を交付させることも、また確約書を差し入れることも実行せず、控訴人に対して阿蘇町のみに区域を限定した浄化槽清掃業及び浄化槽汚泥収集運搬業の許可証を交付するに至ったものであり、同組合長の所為は信義誠実の原則に著しく違背し、裁量権を濫用したものといわなければならない。

(三) 承継前被控訴人組合は、昭和六一年四月二二日、本件許可証を作成するに先立って、同日、承継前被控訴人組合廃棄物の処理及び清掃に関する条例施行規則(以下「規則」という。)を改正し、八条の「浄化槽清掃業の許可証の有効期間」について、従前は「前条の許可の有効期間は毎年四月一日から翌々年三月三一日まで二ケ年とする。」と定めていた(〈書証番号略〉)のを「前条の有効期間は、毎年四月一日から翌々年三月三一日まで二ケ年とする。ただし、組合長が必要と認めたときは許可の有効期間を短縮することができる。」と改めた(〈書証番号略〉)。しかし、浄化槽汚泥の収集運搬を行うために必要な一般廃棄物処理業の「許可期間」について定めた規則五条は、右改正後においても従前どおり「前条の許可の有効期間は毎年一一月一日から翌々年一〇月三一日までの二ケ年とする。」ものとされている。従って、右規則の上からも、浄化槽清掃業の許可証と、浄化槽汚泥の収集運搬を行うための一般廃棄物処理業の許可証は別個にすべきものであるにもかかわらず、承継前被控訴人組合長は一通の許可証をもって本件許可証を作成交付したものであり、違法のものである。

二  控訴人の主張に対する被控訴人らの答弁

控訴人の主張は争う。もっとも、控訴人の右主張のうち規則五条が「毎年一一月一日から翌々年一〇月三一日までの二ケ年間とする。」と定めたままであったことは認めるが、これは右条項についても「ただし組合長が必要と認めたときは許可の有効期間を短縮することができる。」と改正すべきであったのを、当時の事務手続のミスでそのまま放置されたものであり、特別の意味を持たせたものではない。

第三  証拠関係〈省略〉

理由

一本件処分の取消しの訴えに対する被控訴人組合代表理事の本案前の抗弁について

1  本案前の抗弁に対する判断に先立ち、控訴人が取消しを求める本件処分の個数について考えてみるに、地方自治法によると、一部事務組合は、複数の地方公共団体がその事務の一部を共同処理するために設立する機関であって(同法二八四条一項)、特別地方公共団体の一つとして位置付けられ(同法一条の二第三項)、独自の議会や執行機関を備え(同法二八七条、二九二条)、法人格が与えられている(同法二条一項)。そして、組合が設立されると、その規約によって組合の事務と定められた事項に関する限り、その権限はすべて組合に移行し、組合がその事務を処理することになる反面、市町村は当該事務についての権限を失い、その結果、市町村等の執行機関のうちその権限に属する事項がなくなったものがある場合には、当該執行機関は、組合の成立と同時に消滅することになる(同法二八四条一項)し、市町村の制定した条例のうち組合の事務とされた事項に関する部分については、その効力が停止されると解されるから、一部事務組合は、各地方自治体の事務を代理又は代行するものではなく、あくまでも特別地方公共団体として、固有の事務を固有の権限に基づいて処理しているものとみるべきである。従って、本件許可申請においても原則的には組合の管轄する地域単位で許否がなされるべきものであり、控訴人が取消しを求める本件処分も、浄化槽清掃業に関する処分及び浄化槽汚泥収集運搬業に関する処分がそれぞれ一個ずつなされているものというべきである。それ故、控訴人は、浄化槽清掃業及び浄化槽汚泥収集運搬業のいずれについても、区域を限定して許可されているというのであるから、控訴人は本来は不利益処分に属する不許可部分も一個の許可処分の不可分の一部として、区域を限定した許可処分そのものの取消しを求めることができると解するのが相当である。

2  ところで、被控訴人組合代表理事は、本件処分のうち浄化槽清掃業の許可処分については、その許可区域を承継前被控訴人組合の管内全域としており、控訴人主張のように阿蘇町のみに限定されていないから、控訴人は浄化槽清掃業について本件処分の取消しを求める法律上の利益を有しない旨主張するので、先ずこの点について判断する。

本件処分について控訴人に交付された許可証(〈書証番号略〉)は別紙許可証記載のとおりであり、「1 期間」として「昭和六一年四月一日―昭和六二年三月三一日」、「2 取扱う汚泥の種類」として「浄化槽汚泥」、「3 業務内容」として「浄化槽清掃業及び浄化槽汚泥の収集運搬業」、「4 収集区域」として「阿蘇町」と記載されている。ところで、右許可証に記載された「収集区域」なる概念は、本来浄化槽清掃業に存在しないもので、浄化槽汚泥の収集運搬業に使用される用語であること、〈書証番号略〉からも明らかなとおり、承継前被控訴人組合は、本件処分の直前である昭和六一年三月三一日、承継前被控訴人組合の廃棄物および清掃に関する条例を改正し、従前、浄化槽清掃業の許可については区域を定めて許可しなければならないとしていた規定を削除していることなどに鑑みれば、本件処分のうち浄化槽法三五条の浄化槽清掃業の許可処分については、廃棄物処理法七条の浄化槽汚泥の収集運搬業の許可処分と異なり、区域の定めはないものと認めるのが相当である。

もっとも、後記本案についての判断における認定のとおり、控訴人の本件許可申請について、承継前被控訴人組合長が浄化槽汚泥の収集運搬業の許可区域を阿蘇町に限定することにつき、控訴人ほか三業者(以下三業者とは向一助のあそ清掃社、有限会社上村商会、有限会社出崎商会をいい、四業者とは右三業者に内藤正良の阿蘇町衛生社を加えたものをいう。)に対し、区域割で許可を受けることに合意するよう説得した過程では、浄化槽清掃業についても、その許可区域を阿蘇町に限定することを前提としているのか、或は許可処分としては区域を限定しないものの事実上の営業区域を各業者の浄化槽汚泥の収集運搬業の許可区域と一致させるための説得であるのかについて、関係者に明確な認識がなかったためその間に混同がみられ、従って、控訴人も浄化槽清掃業について区域の限定を受けるものと誤解していた節が窺える。このことは、被控訴人ら訴訟代理人が、原審第一回口頭弁論期日において陳述した答弁書で、本件処分は浄化槽清掃業についてもその営業区域が阿蘇町に限定されているとの控訴人の主張を明確に認めていたこと及び浄化槽法四八条一項、熊本県浄化槽保守点検業者の登録に関する条例(〈書証番号略〉)に基づき、控訴人が浄化槽の保守点検業者として承継前被控訴人組合全域につき熊本県知事の登録を受けるについて、控訴人が浄化槽清掃業について区域の限定のない許可処分を受けるのであれば、三業者から業務提携証明書の交付を受ける必要はないと思料されるが、控訴人と承継前被控訴人組合長との間では、阿蘇町以外の区域につき浄化槽清掃業として許可を受ける予定の三業者をして控訴人に業務提携証明書を交付せしめることが問題とされたのであり、熊本県担当部局の職員の指導の下に、控訴人が本件処分後の昭和六一年七月一一日、阿蘇保健所で承継前被控訴人組合長や承継前被控訴人組合の担当者も立ち会いのうえ、三業者から交付を受けた業務提携証明書を県の担当者に提出した際においても、控訴人に対する浄化槽清掃業の許可が承継前被控訴人組合管内全域のものであるとして、業務提携証明書提出の必要性が問題とはされなかったことからも窺い知ることができる。しかしながら、本件許可証の体裁及び許可証発付直前における承継前被控訴人組合の関係条例の「区域」に関する規定が削除された経緯等に照らして、客観的には浄化槽清掃業について営業区域を阿蘇町に限定したとは認められないこと前示のとおりであることからすれば、浄化槽清掃業についての処分は控訴人に対する不利益処分といえないことが明らかである。従って、本件処分の取消しを求める訴え中、浄化槽清掃業についての処分の取消しを求める訴えは、その訴えの利益がないといわなければならない。

3  次に、被控訴人組合代表理事は、浄化槽汚泥収集運搬業につき営業区域を阿蘇町の区域のみに限定した本件処分について、本件処分には終期を昭和六二年三月三一日とする期限が付されており、これを経過した現在、控訴人は本件処分の取消しを求める法律上の利益を有しない旨主張するので判断する。

行政事件訴訟法に定める行政庁の処分の取消しの訴えは、その処分によって違法に自己の権利又は法律上保護されている利益の侵害をうけた者がその処分の取消しによって、右の法益を回復することを目的とする訴えであり、同法九条が処分の取消しを求めるについての法律上の利益というのも、このような法益の回復を指すものである。本件についてこれをみるに、なるほど、前記認定のとおり、本件処分には終期を昭和六二年三月三一日とする期限が付されており、現在において既にその終期を経過していることが明らかである。しかしながら、控訴人の本件許可申請(〈書証番号略〉)は期間及び営業区域を区切って許可を求める内容のものではないところ、控訴人に対する浄化槽汚泥の収集運搬業についての本件処分は、収集区域を阿蘇町の区域のみに限定した許可処分であって、阿蘇町以外の八ケ町村の区域については申請の趣旨に沿う応答がなされているものではないのみならず、現に本件処分後も、控訴人に対し収集区域を阿蘇町の区域のみに限定した許可処分が繰り返されている(〈書証番号略〉)ことからしても、右期限の経過によって申請にかかる許可処分を求める意味がなくなっているとはいえず、本件処分を取り消したうえ、改めて控訴人の申請に対して適法な応答をしてもらうことにより、本件処分の期限後において収集区域を阿蘇町の区域に限定しない許可処分を受ける可能性を回復できるという意味での訴えの利益はなお存在するものというべきである。換言すれば、仮りに、本件処分の期間の経過後において、控訴人が阿蘇町を除いた八ケ町村について改めて再申請をすることが妨げられないことを理由に、訴えの利益を否定するとすれば、再申請の時点において、本件処分時と状況に異動がない限り、本件処分後におけると同様に、承継前被控訴人組合長において前年度と同様の処分をすることは容易に予測できることであるが、これに対して控訴人が取消しの訴えを提起してもその訴えに対する審理の継続中に該処分の有効期間が経過して再び訴えの利益がなくなり、その繰り返しによりつまるところ、控訴人は承継前被控訴人組合長の処分についての実体判断を受ける機会を奪われることとなり、結局同法九条の趣旨が没却されるという不当な結果を招来するに至のである。

そうだとすると、控訴人の被控訴人組合代表理事に対する本件処分の取消しの訴え中、阿蘇町の区域のみに限定して浄化槽汚泥収集運搬業を許可した本件処分の取消しの訴えについて、訴えの利益を否定した原判決は失当である。

ところで、民訴法三八八条は、訴え却下判決を違法として一審判決を取り消す場合においては、控訴審は事件を一審裁判所に差し戻すことを要するとしているが、これは当事者に一審での実体審理の機会をあたえること、すなわち審級の利益を保証するためであると解される。しかしながら本件においては、阿蘇町の区域のみに限定した浄化槽汚泥の収集運搬業の許可処分の取消しの訴えについては、被控訴人組合に対する損害賠償請求に対する前提問題として実体審理が尽くされており、審級の利益は保証されているから、当該部分について事件を一審裁判所に差し戻すことなく当審において本案について判断することが許されると解される。

二そこで、進んで、浄化槽汚泥収集運搬業の営業区域を阿蘇町の区域のみに限定した本件処分の取消しの請求について判断する。

証拠(〈書証番号略〉、当審証人佐藤守男の証言)を総合すると、以下の事実が認められ、他にこれを覆すに足りる証拠はない(ただし右原判決に挙示された証拠のうち「証人北側信行」とあるのを「証人北川信行」と改める。)。

1  昭和四二年に承継前被控訴人組合が設立された当時、その管内にはし尿処理業者として阿蘇町衛生社こと内藤正良(控訴人会社代表者)、あそ清掃社こと向一助、南阿蘇衛生社こと上村勝昭、大阿蘇清掃社こと出崎稔治の四業者がいたが、承継前被控訴人組合の指導の下に四業者の話し合いにより、内藤正良は阿蘇町、向一助は一の宮町、上村勝昭は長陽村、白水村、久木野村、出崎稔治は高森町(昭和四六年ころ以降西原村、波野村、産山村が追加された。)をそれぞれ営業区域とすることに合意し、以来右四業者は右合意に基づいて承継前被控訴人組合長から廃棄物の種類をし尿(収集運搬)とする一般廃棄物処理業の許可を受けて営業していた。

2  昭和四六年九月二四日、廃棄物の処理及び清掃に関する法律が施行され、浄化槽清掃業及び浄化槽汚泥の収集運搬業を行うには、し尿の収集運搬業の許可とは別個の許可を要するようになったが(但し、昭和五三年一一月九日までは同法施行規則旧二条二号により、市町村長から許可を受けた浄化槽清掃業者は浄化槽汚泥の収集運搬業を行うにつき別途の許可を要しなかった。)、四業者は、承継前被控訴人組合管内でも浄化槽設置家庭が増加傾向にあることを知り、浄化槽の保守点検を業として実施すれば将来浄化槽清掃業務の拡大につながり業績を伸ばすことができるとの認識から、昭和四九年六月、内藤正良(出資口数二〇〇口)、その妻八重子(同一〇〇口)、向一助(同二〇〇口)、その妻勝美(同一〇〇口)、上村勝昭(同一〇〇口)、出崎稔治(同一〇〇口)を社員とし、営業目的を「阿蘇郡内におけるし尿浄化槽設置者の依頼を受けて、し尿浄化槽設置者が行うし尿浄化槽の維持管理に対する協力」とする控訴人会社を設立し、以来承継前被控訴人組合長に対する浄化槽清掃業及び浄化槽汚泥の収集運搬業の許可申請は控訴人名義ですることとし、その許可を数次に亘って受けてきたが、控訴人会社の事実上の業務遂行の在り方は、原則として浄化槽の保守点検(ときに保守点検と一体として行う浄化槽清掃及び浄化槽汚泥の収集運搬を含む。)を控訴人会社所有の機械器具を用いてその従業員で行い、浄化槽清掃及び浄化槽汚泥の収集運搬は、控訴人会社の社員でもある四業者がし尿収集運搬についての許可の区域に従って、それぞれの機械器具を用いて四業者個別の従業員で行い、控訴人名義で浄化槽設置者との契約がなされていた場合においても控訴人を介して四業者が代金を領収するという方式であった。

しかして、控訴人会社における以上のような業務の在り方は、その後上村勝昭の営業名義がその妻上村ヤスエとなり、昭和五六年一二月二五日に出崎稔治が大阿蘇清掃社を法人組織として有限会社大阿蘇清掃社を設立し、昭和五七年一二月一四日に上村ヤスエを代表者として有限会社上村商会が設立された後も同様であった。

3  ところで、昭和六一年一月一日以降、浄化槽の保守点検を業として行うには浄化槽法四八条一項、熊本県浄化槽保守点検業者の登録に関する条例に基づき、知事の登録を受けなければならず、右登録申請に当たっては、申請書に営業区域が所在する市町村で許可を受けている浄化槽清掃業者との業務に関する提携を証する書面(業務提携証明書)を添付しなければならないとされたが、昭和六一年始めころから内藤正良を除いた三業者は、それぞれの名義で浄化槽清掃業及び浄化槽汚泥収集運搬業の許可を受けることを強く希望するようになり、昭和六一年二月七日、控訴人会社代表者内藤正良(阿蘇町衛生社としてではない。)が承継前被控訴人組合長に対し、従前同様、承継前被控訴人組合管内全域についての浄化槽清掃業及び浄化槽汚泥収集運搬業の許可を申請したことについて、同月一二日、向一助、上村ヤスエ、出崎稔治から承継前被控訴人組合に対し、四業者間において今後はし尿収集運搬業の営業区域ごとに各々別個に浄化槽清掃業及び浄化槽汚泥の収集運搬業の許可申請をすることの合意ができている旨の通知がなされた。

4  そこで、承継前被控訴人組合長は同日、内藤正良および向一助ら三名から浄化槽清掃業及び浄化槽汚泥の収集運搬業の許可申請の件について意向を聴取したところ、内藤正良も個別の営業許可について格別反対しなかった。しかし、内藤正良は、同月二五日に至って承継前被控訴人組合長に対し、向一助、上村ヤスエ、出崎稔治は控訴人会社の社員であるから右社員が各々別個の許可を受けることは有限会社法上の競業避止義務に違反するとして、そのままでの各々別個の営業許可には同意できないとして、前言を翻した。そこで、承継前被控訴人組合長は三月一九日、内藤正良を除いた三名の業者に対し、社員の地位を残したまま浄化槽清掃業及び浄化槽汚泥の収集運搬業の許可をすることは妥当でないとの意向を表明し、右三名の業者が控訴人会社を円満に退社したうえ、浄化槽清掃業等の許可申請を巡って紛争しないこと、承継前被控訴人組合管内の一般廃棄物処理体制に迷惑を及ぼすことがないことを誓約すれば、組合議会と諮り、個別の許可を考慮するとして、内藤正良ほか三名に対し、同月二二日午前一一時に阿蘇町役場町長室に集まるよう通知した(〈書証番号略〉)。

5  そして同月二二日、承継前被控訴人組合長の下に四名が集まって協議し、向一助、上村ヤスエ、出崎稔治は控訴人会社を退社することに話し合いがまとまり、控訴人会社の社員総会を開催して右三名の退社が可決されたので、承継前被控訴人組合長は、有限会社阿蘇浄化槽管理センター代表者内藤正良を甲、あそ清掃社代表者向一助を乙、有限会社上村商会代表者上村保枝を丙、有限会社出崎衛生社代表者出崎稔治を丁として「1 甲、乙、丙、丁は昭和六一年三月二二日現在におけるそれぞれの業務実施区域並びに業務内容を確認し、お互いにこれを侵さない。2 今後、業務の実施に関しては、甲、乙、丙、丁は協調の精神をもって善処し、いやしくも阿蘇町外八ケ町村衛生施設組合に迷惑をかけるようなことはしない。」ことを内容とする約定書及び「この約定に背く行為をしたものは許可を取り消されても異議がないことを誓約するのでそれぞれ個別に許可をして下さるようお願い申し上げます。」との誓約書を作成し(もともと右約定書及び誓約書は控訴人会社代表者内藤正良の顧問で、清掃問題研究会々長である佐藤守男の案文に基づいて作成されたものである。)、内藤正良、向一助、上村ヤスエ、出崎稔治にそれぞれ甲、乙、丙、丁の名下に捺印を求めたところ、控訴人会社代表者内藤正良は捺印したが、他の三名は廃棄物処理業者の加盟している団体である熊本県環境整備事業協同組合(以下「環整協」という。)と相談のうえ捺印したいとして右約定書及び誓約書への捺印を後日に持ち越した(〈書証番号略〉)。

6  その後、三業者から承継前被控訴人組合長に対し、右約定書中に「昭和六一年三月二二日現在における」と記載された字句の削除等について打診があり、また、同月二六日、全日本同和会熊本県連合会富岡利光名義で承継前被控訴人組合長に内藤正良の公的身分の取消し要求があるなど、本件許可申請を巡っての圧力もあったが、前記誓約書について三業者の捺印がなされないまま同月三一日、従前の許可期限が到来したので、承継前被控訴人組合長は浄化槽清掃や浄化槽汚泥の収集運搬がなされない空白期間が生じ生活環境上住民に迷惑が及ぶことを避けるため、控訴人ほか三業者の話し合いによる決着がつくまでの暫定的措置として、控訴人及び三業者に対し、区域の限定をしない浄化槽清掃業及び浄化槽汚泥収集運搬業の許可を与えることにし、同日組合議会の承認を得、その旨控訴人ほか三業者に伝え、四月五日にその許可証を交付すると通知したが、環整協から同月四日、右暫定的許可をすることに反対する旨、その許可が実施された場合は処理場封鎖の実力行使に及ぶ旨の通告(〈書証番号略〉)がなされたため、暫定的措置としての許可を与えることを取りやめ、本件許可申請の最終的解決を計るため、同月一四日関係者全員を集めて協議会を開催することとした。

7  内藤正良は、同協議会前の同月一一日、承継前被控訴人組合長に対し従前どおり同組合管内の全域について、浄化槽清掃業及び浄化槽汚泥収集運搬業の許可がなされるよう要望書(〈書証番号略〉)を提出したが、右協議会当日、承継前被控訴人組合長から説得を受け、控訴人は右要望書の許可範囲を縮小して内藤正良が阿蘇町衛生社としてし尿収集運搬業につき許可を受けている阿蘇町の区域、あそ清掃社こと向一助は一の宮町の区域、有限会社上村商会は長陽村、久木野村、白水村の区域、有限会社出崎商会(旧商号大阿蘇清掃社)は高森町、西原村、波野村、産山村の区域についてそれぞれ浄化槽清掃業及び浄化槽汚泥の収集運搬業の許可を受けることを三業者と合意したうえ、浄化槽の保守点検業は控訴人が従前から承継前被控訴人組合管内全域について営業をしていたところから、浄化槽清掃業及び浄化槽汚泥収集運搬業が右のように区域を限定して許可されるとすれば、向一助ら三業者から業務提携証明書の交付を受ける必要があるとして、承継前被控訴人組合長に対し、その責任において三業者をして業務提携証明書を控訴人に交付させる旨の書面を控訴人に差し入れること及び三業者が業務提携証明書の交付をしないときは、控訴人に従前どおりの全域について許可を与えることなどを要求した(〈書証番号略〉)。これに対し、承継前被控訴人組合長は控訴人に対する業務提携証明書の交付について三業者を説得することは了承したものの、将来の許認可権の拘束とみられるような確約書の差し入れ等はこれを拒否し、三業者も業務提携証明書の交付方についての組合長の説得に対し容易にこれに応ずる気配がなかった。

8  そこで承継前被控訴人組合長は、止むなく、同月二二日、業務提携証明書の交付を待たずに、本件許可申請及び三業者の許可申請について、控訴人ほか三業者の区域割の合意に沿って許可することとし、控訴人の浄化槽汚泥収集運搬業の区域を阿蘇町に限定した本件処分をなした。控訴人も、業務提携証明書の交付を受けることは他日のこととし、三業者とともに一応の謝辞を述べて承継前被控訴人組合長から本件許可証の交付を受けた(〈書証番号略〉)。

9  その後、控訴人訴訟代理人である弁護士西清次郎は、控訴人から委任を受けたとして同月二四日、承継前被控訴人組合長に対し、三業者の業務提携証明書の交付に関する書面をこの書面到達後三日以内に送付すること、それができない場合は従前どおり控訴人に阿蘇町外八ケ町村を収集区域とする許可証に戻すことを要望する旨の通告書(〈書証番号略〉)を送付したのに対し、承継前被控訴人組合長は翌日、四月一四日に県の担当職員、三業者が委任した環整協の役員、内藤正良とその顧問佐藤守男、承継前被控訴人組合長及び同副組合長、組合議長、白水村長、一の宮町長らが集まって話し合った結果確認された事項に基づき本件許可証を交付したものである旨の回答(〈書証番号略〉)をしたにとどまった。

10  控訴人はこの回答に納得できず、同年五月二八日本件処分の取消しの訴えを提起したが、その後の同年七月一一日に至って阿蘇保健所において、熊本県の担当職員、承継前被控訴人組合長及びその担当職員の立ち会いの下で、三業者から業務提携証明書(〈書証番号略〉)の交付を受け、これを直ちに県職員に提出し、翌日、熊本県知事から浄化槽保守点検業登録の営業区域を承継前被控訴人組合管内全域とする登録変更の通知(〈書証番号略〉)を受けた。しかしその間、控訴人が承継前被控訴人組合管内全域についての浄化槽清掃業の許可を受けているとして、三業者から業務提携証明書の交付を受ける必要はないのではないかという発言はみられなかった。

以上の事実が認められ、他に以上の認定事実を覆すに足りる証拠はない。

三そこで右認定事実にもとづいて、承継前被控訴人組合長が、控訴人の浄化槽汚泥収集運搬業の許可申請についてした本件処分が廃棄物処理法等に照らし違法のものであるか否かについて判断する。

1  廃棄物処理法七条三項は一般廃棄物処理業の許可について、一般廃棄物の収集を行うことができる区域を定めることができるとしている。ところで、浄化槽汚泥を含む一般廃棄物を収集し、運搬し、処分することは、生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的とする市町村固有の事務であるが(地方自治法二条九項、別表第二の二の十一)、これを全て市町村が自ら処理することは実際上できないこともあるので、廃棄物処理法は一般廃棄物処理業を許可制とし、許可を与えた一般廃棄物処理業者をして一般廃棄物処理事務を代行させることもできるとしている。しかして、一般廃棄物処理業の許可を与えるかどうか、また、市町村の区域内のどの範囲について許可を与えるかは、市町村の一般廃棄物処理事務の円滑な遂行に必要かつ適切であるかどうかという観点から決定さるべきものであり、この意味において許可権者である市町村長ないし一部事務組合組合長の自由裁量に委ねられているものということができる。

2  ところで、承継前被控訴人組合管内においては、控訴人会社設立前から一般廃棄物処理業のうち、し尿収集運搬業については阿蘇町衛生社こと内藤正良ほか三業者が区域割で個別の許可を受けていたが、浄化槽清掃業及び浄化槽汚泥収集運搬業については、承継前被控訴人組合管内全域について控訴人だけがその許可を受けていたこと、しかし、控訴人が承継前被控訴人組合管内全域について浄化槽清掃業及び浄化槽汚泥収集運搬業の許可を受けていたとはいえ、控訴人の浄化槽清掃業及び浄化槽汚泥収集運搬業の業務遂行の実体は、四業者が控訴人会社を設立した時の合意により、四業者が従前から許可を受けていたし尿収集運搬業の許可区域に従ってそれぞれ浄化槽清掃及び浄化槽汚泥の収集運搬をなし、控訴人会社は専ら浄化槽の保守点検業務をその従業員と機械器具をもって行っていたにすぎなかったこと、また、そうであったからこそ、内藤正良は承継前被控訴人組合長から説得された結果、結局浄化槽の保守点検業を控訴人会社の業務として確保することだけで止むを得ないと判断し、承継前被控訴人組合長との間において、三業者から業務提携証明書の交付を受けることを条件に、区域割によって個別に浄化槽汚泥収集運搬業の許可を受け、浄化槽清掃業については事実上右区域割で営業を行うことに同意をしたこと、一方において、原審証人北川信行の証言、原審における被控訴人組合代表者本人尋問の結果及び弁論の全趣旨から明らかなとおり、承継前被控訴人組合が当時設置していた処理施設の能力からみて、控訴人及び三業者に承継前被控訴人組合管内全域を収集区域とする各個別の許可を与えるとすれば、浄化槽汚泥の無計画搬入延いては業者間紛争の激化を来し、その結果清掃及び浄化槽汚泥の収集運搬業務を混乱させる恐れがあるという現実的な問題があったことなど、本件処分の前後の経緯と処理施設の現実問題を総合すると、承継前被控訴人組合長が控訴人に対して浄化槽汚泥収集運搬業の許可を与えるにつき、その区域を阿蘇町のみに限定したことが廃棄物処理法の趣旨、目的に照らし承継前被控訴人組合長の自由裁量権の範囲内であると認めることはさしたる難事ではない。

3  控訴人は、本件許可申請が廃棄物処理法七条二項の許可要件を充足しているから、承継前被控訴人組合長としては、一般廃棄物の処理計画を規定した同法六条一項、二項の趣旨に照らし、浄化槽汚泥収集運搬業について浄化槽清掃業の営業区域と同一の許可を与えるべきである旨主張する。しかし、承継前被控訴人組合長が控訴人に対し、浄化槽清掃業についてはその全域について、浄化槽汚泥収集運搬業については阿蘇町の区域のみに限定してその許可をなしたのは、前記認定の経緯によるものであり、控訴人が浄化槽汚泥収集運搬業の許可を受けていない区域については、他の三業者がそれぞれ個別に浄化槽汚泥収集運搬業の許可を受けて浄化槽汚泥の収集運搬にあたることが前提となっているものであるから、浄化槽清掃によって生じた汚泥が生活環境の保全上支障となるおそれはない。もっとも、控訴人だけについていえば、承継前被控訴人組合管内の全域について浄化槽清掃業の許可を受けても、浄化槽汚泥収集運搬業の許可を受けない区域については、浄化槽を清掃して引き抜いた浄化槽の汚泥を収集運搬することができないため、事実上浄化槽清掃業を行うことは困難であることは明らかである。しかし、これは浄化槽清掃業については区域の限定はできないことからその全域が許可区域とされただけのことであって、現実の清掃業務は従来から四業者のし尿収集運搬業の区域割に従って行われたのであり、浄化槽清掃業について区域を限定しなかったからといって当然に浄化槽汚泥収集運搬業についても承継前被控訴人組合全域についてその許可をすべきであるとはいえない。

これを要するに、前認定の経緯により承継前被控訴人組合が定めた廃棄物処理法六条一項所定の処理計画は従前の四業者の区域割による分業の実態を形式的に追認することを内容とするものであって、実体的にみて計画の内容に変りはなく、もとより同条二項の「一般廃棄物を生活環境の保全上支障が生じないうちに収集、運搬する」趣旨に反するものではない。換言すれば、阿蘇町以外の区域について控訴人に対し運搬業の許可を与えることは無用な競業による弊害を惹起する点において全体の円満な処理計画の遂行の妨げとなるおそれがあるということができるから、阿蘇町以外の区域について運搬業の許可を求める控訴人の本件申請は承継前被控訴人組合が定めた処理計画の趣旨に適合しないものであり、結局同法七条二項二号の許可要件を充足しないものという外はない。この点の控訴人の主張は失当であり採用できない。

4  控訴人はまた、控訴人が、浄化槽清掃業及び浄化槽汚泥収集運搬業について、その営業区域を阿蘇町に限定されることに合意したのは、承継前被控訴人組合長が控訴人に対し、本件処分時までに三業者をして業務提携証明書を控訴人に交付させることを約束する内容の書面を差し入れると確約したからである。しかるに、承継前被控訴人組合長は右確約に反して書面を差し入れないまま、営業区域を阿蘇町に限定して本件処分をしたのは信義誠実の原則に反し、裁量権の濫用である旨主張する。

なるほど、控訴人会社代表者内藤正良が、営業区域を阿蘇町に限定されることに合意するについての条件として、その主張のような書面の差し入れを要求したことは前認定のとおりであるが、同時に、承継前被控訴人組合長が行政庁の許認可権を将来に亘って拘束するようなことはできないとしてこれを拒否したことも前認定のとおりである。承継前被控訴人組合長としては、控訴人会社がその機械器具を用いその従業員で管内全域の浄化槽の保守点検を行ってきた実績(控訴人会社が右機械器具の購入について投下した資本及びその従業員の処遇をも考慮されたことは当然である。)を考え、かつ、本件許可申請を巡る業者間の対立によって予想される廃棄物処理業務の停滞をおそれる余り、三業者の控訴人に対する業務提携証明書の交付に協力することを約束したに止まったのであり、その間承継前被控訴人組合長に控訴人が主張するような信義誠実の原則に反し、裁量権を逸脱したと目される所為はないから、この点の控訴人の主張も理由がない。

5  更に控訴人は、本件許可処分当日に改正した承継前被控訴人組合の規則によれば、浄化槽清掃業及び浄化槽汚泥収集運搬業の有効期間が異なるから、それぞれ二通の許可証を交付すべきところ承継前被控訴人組合長が本件処分を一通の許可証でした点で規則に違反しており取消されるべきである旨主張する。承継前被控訴人組合の規則が、当時、控訴人主張のとおりであったことは被控訴人らが自認するところであるが、弁論の全趣旨によれば、これは承継前被控訴人組合が右規則を改正した際、浄化槽汚泥収集運搬業についての許可の有効期間も、浄化槽清掃業の許可の有効期間と同様に改正すべきであったのを見落としたに過ぎない事務手続上の瑕疵であることが認められる。しかし、廃棄物処理法七条三項によれば浄化槽汚泥収集運搬業の許可には期限を付すことができるのであるから、承継前被控訴人組合長が本件処分に付した期限が右承継前被控訴人組合規則に違反しているとしても、本件処分の効力を左右するものとは到底解されない。浄化槽清掃業と浄化槽汚泥収集運搬業につきそれぞれ別個二通の許可証を作成交付しなければならない旨の控訴人の右主張も主張自体理由がなく採用できない。

以上説示のとおり、承継前被控訴人組合長が、浄化槽汚泥収集運搬業について、その収集区域を阿蘇町の区域のみに限定してなした本件処分に違法はなく、他に本件全証拠によるも違法性を認めるべき証拠はないから、その取消しを求める控訴人の請求は失当である。

四最後に、控訴人の承継前被控訴人組合に対する損害賠償請求について判断するに、前項において判断したとおり、承継前被控訴人組合長の本件処分に違法はなく、他に本件全証拠によるも違法性を認めるべき証拠はないから、その余の点について判断するまでもなく失当たるを免れない。

五よって、控訴人の被控訴人組合代表理事に対する本件訴え中、営業区域を阿蘇町の区域のみに限定した浄化槽清掃業についての本件処分の取消しを求める訴えは不適法であるから、原判決は相当であって本件控訴は理由がなく、また、右訴え中、右区域のみに限定した浄化槽汚泥収集運搬業についての本件処分の取消しを求める請求は失当としてこれを棄却すべきところ、訴えの利益がないとしてこれを却下した原判決は失当であるが、同被控訴人から付帯控訴がなされていない本件では、原判決を不利益に変更することができないから、結局、同被控訴人に対する本件控訴をいずれも棄却することとし、被控訴人組合に対する損害賠償請求は失当でこれと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないのでこれを棄却すべく、控訴費用の負担について民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官鍋山健 裁判官松島茂敏 裁判官大島隆明は転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官鍋山健)

別紙〈省略〉

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